【解説】住民投票条例案 議会で否決
- 2016/1/21
- 尾道のニュース
ニュース解説 ジャーナリスト 毛利和雄さん 1948年 尾道市 生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業。NHK入局後、奈良、大阪局を経て、歴史遺産、景観、まちづくりを担当のNHK解説委員をつとめた。NHK退局後、鞆の浦に在住。これまでの経験を活かし、歴史や文化資産を活かしたまちづくりについて広く伝えている。ラジオ出演や講演活動も多い。 |
尾道の市庁舎建て替え問題で、公民館を壊して新しい庁舎を建てるか、それとも公会堂を残して市庁舎は新築しないかを市民の投票で決めようと市民団体が直接請求していた条例案が市議会で否決されました。
ニュースと鞆のまちづくりの二つの話題について、ジャーナリストの毛利和雄さんにうかがいました。(1月18日 月曜日に放送の内容を再構成したものです。)
市政に関して重要な問題に市民の声を反映しようという住民投票条例案を、市民団体が請求したのは、尾道市では初めてのことだそうですね?
そうです。尾道市の庁舎建て替え計画は、今の庁舎では大地震が来た時に倒壊の恐れがあるので、市役所の隣にある公会堂を壊して、その跡地に新しい庁舎をたて、今の庁舎を壊せば、仮庁舎がなくても済むというもので、おととしの市議会で認められていました。
それに対し、六つの市民団体が、今の市庁舎の建て増しされた部分は耐震上問題があるので壊したほうがいいが、建て増し以前の部分は丁寧に作られているので、耐震補強をすれば建て替えなくても十分使える。しかも、公会堂は、市民から寄付を募って建てられたもので、壊してしまうのはもったいない。などとして、この問題に市民の声を反映しようという住民投票条例を求める直接請求する署名運動をしました。
この直接請求には、有権者の五十分の一の署名が必要ですが、それを大幅に上回る2万2千筆近くの署名が集まりました。
こうした住民投票条例を求める直接請求は、尾道では初めてだということで、六つの市民団体の代表のコォレッツファーかおりさんは、市議会の委員会で、「尾道が日本遺産に選ばれたのは歴史文化を生かしたまちづくりに市民とともに歩んできた結果だと市長は新春のあいさつで述べられたが、市民が求めている条例案に反対の意見をつけて提案しているのは矛盾している。市の将来にとって重要な問題を市民と一緒に考えてみようという姿勢こそ、全国世界の人に尾道ファンをつくることができる。」と訴えました。
市議会は、結局、今度の条例案を否決したわけですが、新しい庁舎を建てる計画に反対する市民団体の理由はどういうところにあったのでしょうか?
いくつかあります。まず一つは耐震上の問題。それは、さっき少しふれましたが、それに加えて、市議会がいったん認めた後になって、今の敷地では液状化の恐れがあるというデータが出され、市役所が十分にデータを公開せずに庁舎建て替え計画を認めるよう、学識経験者などによる委員会や議会に結論を出させたのではないか、ということがひとつ。
もう一つは、大地震の際に新庁舎を防災拠点にするとしているが、海辺に近い現在の場所に防災拠点を設けることが適切なのか。
さらに、財政上の問題として、新庁舎の建設は市町村の合併後に適用される合併特例債でまかない、その償還の70パーセントは国からが交付税として面倒を見てくれることになっているが、交付税の額は国の財政事情で減らされる恐れもあり、安易に頼っていいのか、などの理由が挙げられています。
そうした市民団体が心配している点について尾道市の考えは、どうなのですか?
財政の問題に関し、平谷市長は、合併特例債が認められることになったから新しい庁舎を建てようとしたのではなく、東日本大震災が起こり、その後の復旧、復興に防災拠点になる庁舎があるか、ないかで大きな違いが出ることになることを知り、新しい庁舎が必要だと思った。
そのためにも、十分な強度を備えた新しい庁舎が必要だ。財政上、流動的な問題があるが、それは効率的な財政運用で対応していきたい、などと答弁しました。
今回の問題に関して市議会のやり取りを聞いていまして、取り壊すことになる公会堂については耐震診断やコンクリートの強度について調査をしていないことをはじめ結論を導くための調査が十分なのかどうかや、今では鉄筋コンクリートの建物の補強、補修技術は進んできていますので、本当に無駄なことに終わってしまうのかどうか疑問がぬぐえない方も多いのではないでしょうか。
住民投票条例案が否決されたことを受けて、住民団体の人たちは今後どのように対応しようとされているのですか?
市民の直接的な声を反映できるよう間接民主主義を補うための方法ともいえる住民投票に対して、今回の問題は複雑な問題であり住民の投票はなじまないとの意見が議員から出たのはおかしいなど、反発を強めています。
そこで、平谷市長の解職、職を解く、解職や市議会の解散を考えたいという意見も出ています。きのうも役員会を開いて今後の方針を話し合いましたが、市長の解職や市議会の解散を求める直接請求は選挙後1年間はできません。選挙は、去年4月にあったばかりで、1年たつにはまだ日がありますので、慎重に検討しよう。
今回の問題に関して、市役所が誤った説明をしてきたので、それについて市民に理解を求めるために、ビラ5万枚を全戸配布するなど運動を続けていくことにしています。
きょうは、もうひとつ鞆のまちづくりのお話もあるそうですが、どういう内容ですか?
私、鞆に住んでいますが、久しぶりに会う人ごとに、鞆の埋め立て架橋の問題は片が付いたのですかと聞かれるんです。
鞆の埋め立て架橋問題は江戸時代の港湾施設が今も残っている鞆港の一部を埋め立てて橋を架けようという計画ですが、反対住民が景観の保護などを理由に起こしていた訴訟で広島地方裁判所が埋め立て免許差し止めの判決を出しました。それを受けて、広島県の湯崎知事が計画を取りやめることを決めましたが、広島地裁の判決を不服として、前の知事が控訴していた訴訟に関しては、取り下げないままになっていました。
それは、埋め立て架橋推進派の住民が反発したままでは、埋め立て架橋の取りやめを前提にしたまちづくりに取り組めないので、その理解が得られるまで取り下げないとしていました。
そのうえで、広島県は台風や大地震の際の高潮対策を急がなければいけないとして防潮堤を整備する案を示しました。雁木、階段状の石垣がある部分は必要な時だけに起こして使う防潮堤を設けるとして景観面での配慮を示しましたが、鞆港でも西の砂浜がある部分に関しては防潮堤の背後に3メートルの幅の管理道路を設ける案を示したため地元住民が新たな道路計画だとして反対していました。
この防潮堤の案は、浜辺に面した住宅街を通過する道路を広げる案とセットになっていましたが、昨日の住民説明会で、広島県は、現在ある道路の拡幅と浜辺の防潮堤の整備を切り離し、道路拡幅を先に進めるとの方針を打ち出しました。
こういう状況の中で、湯崎知事は埋め立て免許申請を取り下げる調整に入るとの意向を今月12日の記者会見で表明しました。これは、鞆の町内会連合会が町の一部とはいえ道路を拡幅する県の計画を受け入れる意向を示していることから、埋め立て免許取り下げの条件が整ったとの判断をしているものとみられます。
県が埋め立て申請を取り下げれば、訴訟の意味がなくなるので反対住民側も訴訟を取り下げることにしています。ということで、30年余り前から懸案だった埋め立て架橋問題は決着の見通しが出てきました。しかし、埋め立て架橋の取りやめの際に示された町の背後の山にトンネルを掘る案をどうするのかをはじめ、安心安全なまちづくり、観光振興など鞆の町づくりには大きな課題が残っています。